『イニシェリン島の精霊』ネタバレ感想・考察!おじさんの”破局”がもたらす結末

『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督がサーチライト・ピクチャーズと再びタッグを組み、第95回アカデミー賞では作品賞や監督賞など8部門9ノミネートを達成した『イニシェリン島の精霊』が全国公開中。

本記事では、『イニシェリン島の精霊』のあらすじ・感想をネタバレありで解説していきます。

この記事を読むのにかかる時間【5分】

『イニシェリン島の精霊』あらすじ・作品情報

最後まで結末がどうなるのか分からない緊張感・見応え◎

友達・恋人と観に行くのをおすすめする度△

あらすじ

本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。

島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。

急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。

美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。

https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin
作品情報
タイトルイニシェリン島の精霊
原題The Banshees of Inisherin
本編尺114分
製作国イギリス
監督マーティン・マクドナー
原作なし
出演コリン・ファレル/ブレンダン・グリーソン/ケリー・コンドン/バリー・コーガン/
配給ディズニー
スタッフ・キャスト

監督・脚本を手掛けたのは「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー

「ヒットマンズ・レクイエム」でもマクドナー監督と組んだコリン・ファレルブレンダン・グリーソンが主人公パードリックと友人コルムをそれぞれ演じる。共演は「エターナルズ」のバリー・コーガン、「スリー・ビルボード」のケリー・コンドン

くろまめ
くろまめ

ブレンダンはあの「ハリーポッター」シリーズでマッドアイ・ムーディ役を演じていることでも有名だよ!

「ハリーポッター」でマッドアイ・ムーディを演じるブレンダン
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=2961

『イニシェリン島の精霊』登場人物

パードリック(コリン・ファレル)

家畜の世話をしながら妹と一緒にイニシェリン島で暮らす。基本は気の良い男だが、酒に酔うと他人に絡む面倒な一面も。日課は毎日14時に行きつけのパブで親友のコルムとビールを飲むこと。

コルム(ブレンダン・グリーソン)

パードリックの長年の友人で、イニシェリン島で愛犬と暮らす。音楽が好きで、バイオリンを弾くのが趣味。パードリックとは対照的で寡黙な人物。

シボーン(ケリー・コンドン)

兄のパードリックと二人暮らし。本を読むことが好きで賢く、島人全員が顔見知りというイニシェリン島の閉鎖的なコミュニティに嫌気がさす。

ドミニク(バリー・コーガン)

警官の父親と二人暮らしの風変わりな青年。父親からはしばしば暴力を振るわれることも。シボーンに好意を抱いている。

マコーミック夫人(シーラ・フリットン)

いつも真っ黒なドレスを身にまとい不気味な笑みをたたえるおせっかいな老婆。作中では精霊(Banshee)の声が聞こえたら死者が出るというアイルランドの言い伝えを予言する。

『イニシェリン島の精霊』感想【ネタバレなし】

・”オジサン同士の喧嘩”という地味すぎるテーマながら観客を見事に引き込む脚本力
・主人公パードリックを演じたコリンファレルの演技
・アイルランドの穏やかで壮大な風景

・基本は会話劇で構成されているため映画館で見なくても良いかも?
・仲の良い友人・恋人と観に行くことはおススメしない

舞台はアイルランドの小さな島・イニシェリン島。ある日突然親友だと思っていた男から絶交を言い渡された男の話、という地味すぎるテーマに興味をそそられ、公開初日に観に行ってきました。

島民全員が顔見知りなほどのクローズドなコミュニティで、親友に突然絶縁されたおじさんがどうなっていくのか、かなりリアルに描かれており、自分は一体何を見せられているのか‥という気持ちにさせられつつも、段々と不穏な方向に展開していく物語に目が離せず。

パードリックとコルムそれぞれに共感を覚える場面もあったりと、登場人物の心情がかなり細やかに描かれており飽きることなく楽しめた映画でした!

アイルランドの壮大な風景も、重厚な雰囲気を醸し出していて見応え◎

ただ、少々痛グロな場面があったり、観終わった後に人間関係って何なんだろう‥親友は本当に自分のことを親友と思ってくれているのか?

など悶々と考えてしまう映画なので、一人で静かに観に行くことをおすすめします!(笑)

くろまめ
くろまめ

以下ではさらに詳しいストーリーを解説していくよ!

『イニシェリン島の精霊』ストーリー【ネタバレあり】

以下では映画の結末に関するネタバレに触れています。映画鑑賞前の方は注意の上お読みください。

起:アイルランドの小さな島で平凡に暮らす男・パードリック

本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。

島民全員が顔見知りという平和な小さい島で、気のいい男パードリックは妹のシボーンと家畜の世話をしながら暮らしていた。

変わらない平凡な毎日を暮らすパードリックの日課は、毎日14時になると長年の友人・コルムと行きつけのパブに行きビールを飲むこと。

ある日、いつものようにコルムを迎えに行きパブに誘うが、コルムはパードリックの呼びかけに反応せず部屋でただ煙草を吸っているのだった。

承:パードリックが突然、親友のコルムから絶交を言い渡される

そんなコルムを不思議に思いながらも先にパブで待っているから、と伝えパブに向かったパードリック。

パブでは店長にいつも一緒のコルムはどうした?喧嘩か?と聞かれるも、身に覚えがないと答えるパードリック。

そうこうしているうちにパブにやってきたコルムだが、パードリックには目をくれず店の外に出ていってしまう。

パードリックはコルムに、自分が何かしたなら謝る、怒っている理由を教えてくれ、となだめる。

そんなパードリックにコルムは、お前は何もしていない、ただもうお前のことが好きじゃなくなったのだ、と淡々と答えるのだった。

事態を解決しようとするパードリック

突然のコルムの心境の変化に気持ちが追い付かないパードリックは、妹のシボーンや風変わりな隣人・ドミニクの力を借りてなんとかコルムと仲直りをしようと試みるが、そんなパードリックを頑なに拒否するコルム。

なぜ急にパードリックが嫌になったのか、というシボーンの問いに、「あいつは退屈だ」と答えるコルム。

兄が退屈なのはずっと前からだ、と反論するシボーンに多分自分の気持ちが変わったのだというコルム。

ある日突然、パブでパードリックの退屈な話を聞くだけの人生が嫌になった、自分が死ぬまでの残りの人生は有意義に過ごしたいのだ、と答えるコルム。

バイオリンを弾くのが趣味だったコルムは、作曲に専念したいというのだった。

パブでも、音大生たちと一緒に楽しそうにバイオリンを弾くコルム。パードリックはそんなコルムを苦々しく見つめる。

それでもコルムを諦めきれないパードリックだったが、ある日コルムにこれ以上俺を煩わせるなら俺は自分の指を一本ずつ切り落とすと宣言される。

あまりの宣言に、コルムが鬱なのではないかと心配したパードリックは教会や周囲の人間に相談して回る。

そんなパードリックに、コルムは左手の自分の人差し指を切断してパードリックの家のドアに投げつけるという行動をとったのだった。

転:パードリックの大事なポニーの死をきっかけに2人の歯車が狂いだす

いよいよコルムの本気さを知ったパードリック。シボーンにも、コルムにはもうこれ以上関わらないようにと警告される。

人差し指を失ってもなお、パブで音大生たちとバイオリンを弾きながら音楽活動にいそしむコルムを遠くから見つめるパードリック。

ある時、パードリックは父親の酒を盗み殴られたドミニクを自宅に一晩泊めてやったことをきっかけに、町でドミニクの父親で横柄な警官・ピーダーに殴られる。

そんな様子を見ていたコルムはパードリックを抱き起こし馬車に載せ、家の近くまで黙って送ってやるのだった。コルムの優しさと悔しさに泣いてしまうパードリック。

その夜、パードリックは酒の勢いでパブでコルムに絡む。

心配したドミニクとシボーンにより家に返されたパードリックは翌日コルムに謝りに行くも、コルムからはどうして自分を放っておいてくれないのか、と冷たく突き返される。

コルムの固い意志をどうにも変えられないことを感じ、ドミニクに相談したパードリック。

ドミニクに、パブでコルムに絡んだ時はコルムはパードリックを見直したようだった、もっと強気に出てみては?とアドバイスされる。

ドミニク
ドミニク

ドミニクの余計すぎるアドバイス‥。ただただ不穏。

ある日パードリックは道すがら、パブでコルムと何やら話をしていた音大生の男を見つけて声を掛ける。

良かったら馬車に乗っていくか、というパードリックの親切な言葉に、馬車に乗り込む音大生の男。

パードリックは音大生の男に、実家から父親が危篤だという電報が入ったみたいだ、と嘘をつき男を島から追い出してしまう。

その後、一曲完成したことに満足し愛犬と部屋で踊っていたコルムの家を急に訪れる。

曲が完成したのだというコルムの言葉に、それは良かった、パブでお祝いをしようと誘うパードリック。

久しぶりに友人と会話が続いたことに安堵したパードリックは、実は音大生の男を島から追い出したのだがそんな必要はなかったな、先にパブで待っているから、とコルムに伝えて家を出る。

くろまめ
くろまめ

パードリックはアホなのかな?

パブでビールを飲みながらコルムを待つパードリック。店を訪れたのは妹のシボーンだった。

実は島を出ようと思っている、とパードリックに伝えるシボーン。

島の狭いコミュニティに嫌気がさしていたところに、本土で働き口が見つかったのだった。

パードリックはなんとかシボーンを説得しようとするが、意志は固い様子。

そんな言い合いをしながら家に向かっていた2人が目にしたものは、左手の指を全て切断し、血を流しながら歩いてくるコルムだった。家に戻り、もうこんなところにはいられないと急いで旅仕度をするシボーン。

ついに家を出てしまったシボーンの不在をかみしめながら、寂しく日々を送っていたパードリックを更なる悲劇が襲う。

ドアに投げつけられていたコルムの指を誤って食べてしまったポニーのジェニーが、喉を詰まらせて死んでしまったのだった。

可愛がっていたジェニーの死を嘆き、墓を堀るパードリック。

パブでは、向かってきたパードリックに指のことは謝る必要はない、もうこれできっぱり終わりにしようと握手のために手を差し出したコルム。

パードリックは、お前のせいでジェニーが死んだ。このままでは終われない、ここから始まるのだと復讐を誓うのだった。

結:パードリックがコルムの家を燃やす。精霊の予言通り死体は2つに。

パードリックは、明日コルムの家を燃やすことを宣言。犬は予め外に出しておくように、と告げパブを立ち去る。

故意ではないにせよ、自分のせいでジェニーが死んでしまったことに罪悪感を抱くコルム。

予告した時間になり、コルムの家に向かったパードリック。

家の前に出されていたコルムの愛犬を自分の馬車の荷台に載せ、コルムの家に火をつける。

何か所かに火をつけたあと、コルムの家の中を覗くパードリック。コルムは燃える家の中で静かに煙草を吸っているのだった。

コルムの家を後にするパードリック。

一方、シボーンからはパードリックに手紙が届いていた。本土での暮らしは充実している、ベッドが一つ余っているからパードリックもこちらに来ないか、という内容だった。家畜の世話はドミニクに任せば良いから、と提案するシボーン。

気持ちはありがたいが俺はこの島を離れることはできない、と返信の手紙を書くパードリック。

ドミニクは先日湖で足を滑らせて死んでしまった、家畜の世話は頼めそうにないと記す。

一方、燃え切って半分ほどが焼け残ったコルムの家から椅子を持ち出して腰掛けるマコーミック夫人。

パードリックがコルムの家に行くと、コルムが海辺に佇んでいる。

穏やかに語り合う2人。コルムは、これでおあいこか、とパードリックに尋ねる。

パードリックは、どちらかが死ぬまで終わらない、終わらないほうが良い戦いもあるのだ、と静かに答えるのだった。

『イニシェリン島の精霊』感想・考察【ネタバレあり】

コルムはなぜ突然パードリックに絶縁を言い渡したのか?

本作を観終わったあと、何かすごいものを見せられた感があるものの、この喧嘩騒動自体が暇を持て余したおじさんによる究極の暇つぶしだったのでは、という感想を抱きました。

作中、シボーンに「人生は死ぬまでの暇つぶしだと思わないか」と問いかけるコルム。

死ぬまで同じ毎日を繰り返し、何も残さずに死ぬのだとある日気が付いたコルムの、必死の抵抗だったのではないかと思います。

まさに”暇すぎて死にそう”という状態に本気で立ち向かったおじさんを待ち受けた結末が片手の指と家を無くす、もう一人のおじさんも親友・妹・大事なポニーを無くす、というものです。

島人は全員顔見知り、決まった日常をいつも通り送るという島の生活を、居心地が良いと感じるか、閉鎖的で鬱屈していると捉えるか。

もちろんパードリックは前者、コルムとシボーンは後者だったわけですが、そんな暮らしを居心地が良いを感じていたパードリックが、ある日突然その日常が崩れるとどうなるのか。

結論、こちらのおじさんも自分の居心地の良さを守るために必死で抵抗したのでした。

ドミニクの死の真相は?

劇中にマーコミック夫人が予言した通り、ジェニーとドミニク2つの魂が失われました。

ドミニクの死の真相について、足を滑らせて湖に転落したのだろうとシボーンに手紙を書いたパードリックですが、ドミニクは恐らく自殺したのではと考えられます。

理由は3つです。
・以前も同じ湖で若い青年が自殺していたこと
・ドミニクはシボーンに告白するが、振られたこと
・良い人だと信頼していたパードリックが音大生の男を騙したことを知ったドミニクが、パードリックに失望していたこと

劇中、ドミニクの父親が町の雑貨屋で噂好きの夫人に何かニュースはないのかと聞かれ、29歳の青年が湖で自殺したと語るシーンがあります。

同じ湖で死んでいる息子を発見したのもこの父親で、同じくまだ若かったドミニクの自殺をほのめかしています。

また、ドミニクはシボーンに好意を抱き告白するも断られてしまい、きっとそうだとは思っていた、と切なく立ち去るシーンもありました。

そんなドミニクに追い打ちをかけるように、パードリックを島人で唯一優しいと思い慕っていたのにコルムの友人である音大生の男を父親が死んだという酷い嘘をついて島から追い出したことを知り、失望してパードリックの前からも立ち去るのでした。

以上の理由から、元々狭い島というコミュニティで父親からも虐待を受け、好きな人も友人も無くし孤独を感じたドミニクは自ら命を絶ったのではないかと思います。

ほんのちょっとした行き違いが恐ろしいことを引き起こすのが戦争

おじさん同士のちょっとした喧嘩がやがて恐ろしいことを引き起こす、という本作ですが舞台である1923年はちょうどアイルランドが独立を求めてイギリスと内戦をしていた時期。

劇中でも本土で内戦が繰り広げれらている様子が伺えますが、まさにコルムとパードリックの喧嘩は戦争のメタファーとして描かれています。

ちょっとした行き違いがやがて多くの命を死に至らしめる事件に繋がる、という戦争の恐ろしさが、2人の狭い世界の中でも行われたのでした。

絶交を言い渡されたパードリックがコルムに執着する姿にも、最初はパードリックに同情を抱いて観ていましたが途中はもう放っときなさいよ、と思うくらいのしつこさ‥。

シボーンと一緒に島を出るとか、いくらでも方法はあったはずなのに、島から出て新しい暮らしをすることなど恐らくつゆほど考えなかったのであろうパードリックの姿は、冷静に考えたら他に良い道がいくらでもあったはずなのに、という戦争の発展の仕方にもある種似ているものがあるなと感じました。

『イニシェリン島の精霊』まとめ

今回は『イニシェリン島の精霊』をご紹介しました。

「スリー・ビルボード」を手掛けたマーティン・マクドナー監督が、人の死を予告するというアイルランドの精霊・バンシーをモチーフに描いた人間ドラマ。

第95回アカデミー賞8部門9ノミネート受賞という華々しい功績に加え、

第80回ゴールデングローブ賞(2023年)最優秀作品賞ほか3部門で受賞、5部門でノミネート、第79回ベネチア国際映画祭(2022年)では2部門で受賞など海外でもかなり高い評価を受けている本作品。

まだ観ていないという方は是非一度チェックしてみてくださいね!

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